ピアノ教師を 20年 続けていますが ──
今でも 思い出すたび 胸が痛くなる出来事があります。
■ 賑やかな ご家族と、末っ子の女の子。
姉妹・従兄弟で 通ってくれていた ご家庭で、
レッスンは いつも 大人数で賑やか。
和気あいあいとした時間でした。
その中でも、末っ子で一際 元気だった女の子。
幼稚園から 小学4年生まで通ってくれていて、
性格は エネルギッシュ。
ピアノのタッチも 力強く、
才能豊かな お嬢さんでした。
■ 発表会 2ヶ月前 ──ある日のレッスン。
その日は ──
発表会を 2ヶ月後に控え、
発表会曲のレッスンをしていました。
優しい曲だったのですが、
彼女は 最後まで ──
と、勢いよく 弾き切りました。
私は 言いました。
すると 彼女は ──
今 もう 上手に弾いたじゃん。」
私は つい、こんな言葉を 返してしまいました。
この曲は 優しい曲だから もっと……」
最後まで 説明を 言い切る前に ──
彼女は 突然、怒ったように 机に突っ伏し、動かなくなって しまいました。
■ 私の、思い込み。
今 振り返ると ──
私は 彼女を 勝手に、
「どんなことを言っても 大丈夫な子」
だと、思い込んでいたのだと 思います。
声も 飛び抜けて大きく、
元気で 明るい子だったから。
でも ──
▶それと "傷つかない" は、全く別の話でした。
その後 ──
どんなに声をかけても 反応はなく、
お迎えが来ると、下を向いたまま ドタドタと走って帰ってしまいました。
■ 後日、お母さまから 届いたメール。
とても ショックだったようで、
もう ピアノに行きたくない、と 言っています。」
私は 「下手くそ」と 言った覚えは ありませんでした。
でも ──
上手じゃない」
私の放った言葉が、
彼女の中では「下手くそ」という言葉に 変換されて、深く刺さってしまったのです。
■ こうなってしまっては、後の祭り。
こうなってしまっては、もう 後の祭りでした。
お母さまに 弁解したところで ──
レッスン室は 密室です。
子どもの心に、どう届いたか。
それが、すべて。
完全に、私の失態でした。
■ そのまま、お別れ ──と思いきや。
翌週、彼女は レッスンに 来ませんでした。
その直後、パンデミックが始まり、3月の発表会は 中止。
学年の切り替わりも 重なり、そのまま 教室を辞めることに なりました。
でも ──
どうしても そのまま終わりに したくなくて。
最後に お楽しみ会をしようと、
姉妹・従兄弟たちに 声をかけ、こっそり 集まってもらいました。
彼女は ──
以前と変わらない 明るい顔で、
いつものように "可愛い悪態" をつきながら、
笑って 過ごしてくれました。
私は 思い切って 言いました。
すると 彼女は ──
もういいよ。」
と、彼女らしく あっさり答えてくれ ──
私は 少し 救われた気持ちに なりました。
でも きっと ──
彼女の中には
「先生に "下手くそ" と言われた」という記憶が、残り続けると思います。
■ そこから、言葉を 大事にするように。
この経験から、私は ──
言葉を、とても 大事にするように なりました。
狭い空間での マンツーマンレッスン。
逃げ場のない 空間でもあります。
だからこそ ──
レッスン室が 「安心して 過ごせる場所」であり続けられるよう、
今は 強く 意識しています。
■ 忘れられない失敗。でも、大切な経験。
この出来事は、
私にとって 忘れられない失敗です。
でも ──
教師として大切なことを 教えてくれた、
大きな経験 でもありました。
"別の言葉" に なることがある。 ── だから、ひとことを、丁寧に。